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「生徒にはワクチンよりもまず性道徳教育を」—神奈川県大和市議会

「がんをワクチンで予防できる」という説明にひかれ、この数年間、300万人以上の女子生徒が接種してきた子宮頸がんワクチン。
 だが、同ワクチンの接種により、痙攣、関節痛など激しい痛みに苦しむ子供たちが相当数いることが判明し、国に対して同ワクチン接種を一時中止し副反応との関連を調査するよう求める意見書の提出や一般質問が6月、全国の地方議会で数多く行われた。
 神奈川県大和市議会では、「子供たちに誤った認識を持たせない性道徳教育を求める請願書」も提出されるなど、子宮頸がんワクチンの副反応問題を契機に、子供たちの性モラル教育に焦点が当たり始めたといえる。

ジャーナリスト 安地善太

 さらに、大和市の請願書を受けて、紹介議員が「小学校6年から接種対象になっている同ワクチンに関して、親の保護下にある子供たちには、その予防にワクチンというより、まず学校や家庭での性道徳教育が必要ではないのか」と問題提起。真剣な議論が所管の委員会で行われた。

 子宮頸がんワクチンは2009年12月から、まず英製薬会社、グラクソ・スミスクライン(GSK)のサーバリックスが、2011年8月からは米製薬会社メルク社(MSD)のガーダシルが日本に導入された。

 その際に、製薬会社やわが国の関連医療機関は、産婦人科医の医師らを登場させて、大手新聞の全面広告で一斉にその必要性を何度も吹聴。一方で、副反応については全く触れられて来なかった。ところが接種後、痙攣や関節痛、計算能力低下などの奇妙な症状に襲われ、入院してもその治療法が分からないなど、思わぬ重篤な副反応に直面する女子生徒が全国各地で出てきたのだ。

 同ワクチンで重篤な副反応が発生するという問題は、杉並区の少女のケースで表沙汰になった。同区在住の女子中学生に重い症状が出ていることが今年3月8日、マスコミで報じられたのだった。第一報したのは朝日新聞。何度も同ワクチンの導入を礼賛しておきながら、今度はワクチン被害報道でもリードしようとしていた。

 前日7日の杉並区議会で、曽根文子区議(生活者ネット)が同区で重篤副反応が出ていることを追及。区側がこれを認めたためだ。

 少女は、2011年10月19日サーバリックスを接種した直後から、身体のあちこちに痛みが飛び、歩行も困難となり、母親は翌日、近所の総合病院に娘を入院させるとともに、娘に重篤副反応が出ていることを杉並保健所に連絡。

 その後、同保健所長ら4人が自宅まで菓子折りを持って見舞いに来た。母親は納得のいく治療法に出会えないため、藁をもすがる思いでいくつもの病院の門を叩いている。結局、娘は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)と診断された。

 こうした経緯にもかかわらず、12年6月議会での曽根議員の質問に対し、区側は「杉並区では重篤な副反応は出ていない」と答弁していた。母親は、今年3月、区議会での議事録を調べる中で、この答弁内容を知って激怒した。

 この母親は、3人の区議に事実関係を知らせるメールを送付。1人は保守派の区議、もう1人が公明党区議、そして生活者ネットの曽根区議だった。公明党区議は、生活者ネットの区議が、これを大騒ぎすることになるから、自分に事態の収拾を任せて欲しいと要望。

 事実を表沙汰にしないようにする姿勢に疑問を感じた母親は、公明党区議の「調停」を拒否。こうして「子宮頸がんワクチン 中学生に重い副反応 杉並区、補償へ」(3月8日付、朝日)との記事が全国に流れた。

 これを契機に、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」(以下、連絡会)が設立され、3月25日に発足記者会見が行われた。全国から駆けつけた被害者の子供の両親5人が会見に出席。東京・千代田区の会見場に多くのマスコミが詰めかけるなか、娘の不可解な症状を口々に語った。

 この時、ただ1人実名を出して同連絡会の会長に就任したのが、この母親、松藤美香さん(46)だった。松藤さんは、娘が副反応を示すようになった直後から、「みかりんのささやき」という名のブログを立ち上げて、状況を書き込んで来た。事務局長は、この問題を市議会で何度も質問し、松藤さんと連絡を取り合って来た池田利恵・日野市議が就任。

 この連絡会が立ち上げられるのと前後して、国会では子宮頸がんワクチンを、それまでの任意接種から定期接種に格上げするための予防接種法改正案が議論されていた。連絡会が定期接種化に強く反対する中で、3月29日、参議院本会議はほぼ全会一致で同法案を可決したのだった。

 杉並区に重篤副反応被害者がいることが報じられたタイミングが、政府による定期接種化が大詰めになっていた段階だったため、よりメディアの関心を呼ぶ形となった。松藤さんが気丈夫に、実名を明かして会長として前面に立ったことも大きかった。

 加えて、参議院議員で同法案改正に反対票を唯一投じたはたともこ氏(生活の党)は、薬剤師として同ワクチンを疑問視してきた。法案可決直前の参議院厚生労働委員会で質問に立ち、厚生労働省の矢島鉄也健康局長に事実関係を確認し、同ワクチンが接種する必要性のないものであることを浮き彫りにした。

ワクチンは予防効果よりリスクが4倍

 子宮頸がんワクチンは、がんリスクのあるヒトパピローマウイルス(HPV)の16型、18型にのみ有効だ。ところが一般女性で16、18型を保有する割合は、0.5%と0.2%。また、HPVは感染しても、2年以内に9割が自然消失するため、2年後も16、18型が持続感染している確率は、0.07%。

 これががんの手前の症状とされる前がん病変に至る確率は10%。このため、一般女性に16型、18型が、前がん病変まで持続感染し続ける確率は、0.007%で、子宮頸がんワクチンの予防効果の恩恵を受けるのは、10万人に7人(0.007%)ということになる。

グラフ

 さらに、同局長の答弁で、前がん病変にまで子宮頸部が至っても、その時、定期検診でその症状が判明し、子宮頸部を円錐状に切除するだけで助かることも明らかにされた。定期検診さえきちんと行えば、子宮頸がんワクチンは打つ必要がないのである。実際、子宮頸がんで亡くなる人数は、10代でゼロ。20代でも24人で、大半は高齢者である(右図)

 一方、厚労省で3月11日に行われたワクチン副反応検討会の資料によると、サーバリックスの昨年12月末までの接種者総数が273万人で、そのうち重篤な副反応が785件。つまり10万人中28.75人が重篤な副反応に苦しんでいることになる。

 この二つのデータから「予防効果よりリスクが4倍以上」であることが分かる。この事実は、東京都の中央区議会で青木かの区議(みんなの党)が真っ先に取り上げ、これを日刊紙・世界日報が一面トップ(4月22日)で報道。その後、各地方区議会で何度もデータとして言及されるようになった。

 連絡会は、4月8日、厚労省に出向き、田村憲久厚労相に「ワクチン接種の即刻中止」などを求める嘆願書を代理で応対した健康局結核感染症課幹部に手渡し、その後、同省記者クラブで記者会見。症状に苦しむ被害者の動画を上映した。

 応対したワクチン専門官は、「ワクチン接種のメリット、デメリットを天秤にかけ、副反応の人が余りに多いという状況なら、接種を止めるという判断もあり得る」とし、具体的には、定期的に開かれるワクチン検討部会でそれが討議される、と述べた。

 その副反応検討部会が5月、6月と続けて開かれ、5月の検討部会では、厚労省が把握する報告書のほか、連絡会が直接、被害者から受けた情報をもとに提出した24件の重篤副反応を発症した被害者リストも議論の俎上に乗せられた。

 だが、検討部会の委員は、医学的データが不十分で、「接種中止するだけの医学的論拠が足りない」(桃井眞里子座長)として接種の継続を決定。しかし、6月14日に再び開かれた検討部会では、定期接種化されたワクチンであるにもかかわらず、接種の積極的勧奨を中止するという形で決着した。

 接種後に一般的な頻度より多く発症しているCRPSとワクチン接種との因果関係を調査し、6か月以内に方向性を出すことになっている。因果関係を否定できない有害事象をCRPSに限定して調査を進める形となったわけだ。

 こうした重大な方針展開の背景には、地方議会の積極的な働きもあったといえる。

 6月6日、神奈川県大和市議会の厚生常任委員会では、大和市が国に子宮頸がんワクチン接種事業の一時中止を求める意見書を出すよう要望する「請願書」を審議。

 同請願書はまた、同市でワクチン接種をした約4000人の速やかな健康被害状況の追跡調査、救済体制の確立を要望していた。

 自民党系会派(新政クラブ)の井上貢市議は、子宮頸がんワクチンが、がんの予防効果より重篤副反応の出現率の方が4倍高いことを指摘。そのうえで「リスクが高いのに因果関係は十分に説明されていない。こんな状況では自分の子供にも勧められないし、大和市の子供たちにも勧められない」と述べ、請願書に賛成を表明した。

 ワクチン推進派は、世界保健機関(WHO)や厚労省が推奨しているというのが根拠。これに対して、同市議会では、お役所や世界の機関がどう解説しようと、納得できないものを身近な子供たちに打たすような無責任なことは出来ない、という意見が相次いだ。

 その結果、同委員会では5対1の大差で請願書が可決され、同市議会は請願書に則った意見書を作成。25日の本会議でも圧倒的大差で意見書を可決した。

 同請願書を提出した高津達美氏は、「接種対象の娘を持つ親としてとても心配だった。議員は本当に真剣に自分の意見を代弁してくれた」と述べている。ちなみに、同様な意見書は、埼玉県嵐山町や八潮市の議会でも可決されている。

 高津氏は、「子供たちに誤った認識を持たせない性道徳教育を求める請願書」も提出していた。同ワクチンの接種対象は、小学校6年から高校1年生まで。子宮頸がんワクチンを接種しておけば、中学生でも性交渉しても安心という間違ったメッセージを子供たちに送りかねないことを危惧したものだ。

 この請願書は、文教市民経済常任委員会で審議された。紹介議員となった中村一夫市議(新政クラブ)は、この請願書について、子宮頸がんの原因が「若い時に不特定多数との性交渉」とされているため、学校教育で子宮頸がんワクチンを奨励するのではなく、子供たちに対し、健康維持、健全育成の観点から、不安の多いワクチン接種事業よりも、性道徳の大切さや人格の涵養を家庭、学校、地域で強力に推し進めてほしいこと、特に、学校における道徳教育の中で性道徳を位置づけ、強化することを求めたい、という趣旨になっていることを伝えた

 これに対して、宮応扶美子市議(共産党)が「性教育と性道徳の違いをどう認識しているか」と質問。

 中村市議は、「性教育は体のつくり、性の仕組みの問題で、どちらかと言えば理系的なものである」と述べるとともに、「性道徳教育は、古い言い方で言えば、結婚するまでは純潔を保つということを含んだ人の道のような形での道徳教育である」と語った。

 「昨今、性道徳が乱れていると方々で言われている。小学校6年生から高校1年生という年若い年齢の女子に子宮頸がんの予防注射をする背景には、性行為を行う年齢が低年齢化していることがある」と指摘。

 宮応市議の「性教育、性道徳教育はどのように現在、学校で行われているのか」との質問に、市教委指導室長は、性に関する指導は学習指導要領に則って行われており、保健体育科で性機能、性情報、性感染症について教え、中学であれば思春期のことについて指導が行われていると説明。さらに特別活動で、性についての適切な行動が取れるように養護教諭を活用して集団指導や個別指導を行っていると述べた。

 一方で、同指導室長は「性道徳という言葉は学習指導要領にはない」とし、中学の道徳のある項目で「異性尊重」ということがあり、道徳の授業では互いに異性があるという存在を認め合うといったことを学習している、と解説。性教育の方は様々な形で勧められているが、性道徳の教育はほとんど行われていないことが明らかになった。

 それでも宮応市議は、「男性の大人の買春が一番の社会問題である。そこをきちんとやらないで、性道徳教育を云々するのはいかがなものかと思う」と主張した。

 中村市議は、「親の保護下にある小学生、中学生の女子に対しては、まずワクチン接種をするのではなく、性道徳を守ることが大事だと学校でも家でも教えることを優先すべきではないか」とし、それが請願書の眼目であるとの認識を示した。また「性道徳をしっかりやれば、子宮頸がんだけではなく、ほかの性感染症、望まれない妊娠、その他のこともしっかり守られる」と付け加えた。

 侃々諤々の議論の後、請願書に賛成したのは紹介議員の中村市議と佐藤正紀市議(みんなの党大和)の2人で、反対が上回った。25日の本会議で改めて表決にかけられたが、自民党系の新政クラブの市議8人と、みんなの党大和の2人が賛成。

 結局、反対多数で否決されたが、反対した会派の市議からも「紹介議員が陳情書の文意を汲み取って説明するなど表現が不十分だったが、表現が洗練されれば賛成するのにやぶさかでない」、「学校だけの性道徳教育で対処できない。社会全体で問題解決するという文面であれば賛成の余地はある」といった意見が出された。

 東京都・品川区でも「子宮頸がんワクチン接種事業の見直しと、健全な教育を求める」陳情が区民から出され7月1日、同区区議会の文教委員会で審議。表決の前に、陳情者が趣旨説明を行う機会が与えられ、WHOでも教育による対処の重要性も掲げていることを訴えた。継続審議となったが、地方議会での動きを見ても、子宮頸がん予防に「結婚まで純潔を保つ」ことを奨励する自己抑制教育の役割の必要性が認識されてきたと言えよう。

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