情報室

第二の性革命を阻止しよう

ジャーナリスト 秋野 泰三

米国で幅広く浸透している「性の自己抑制教育」。しかしオバマ政権下では「有害」のレッテルを貼られ、逆にフリーセックスの思想を受け継いだ過激な性教育が広がりつつある。これに対して、子供たちの健全育成を望む保護者や市民らが性教育の正常化を求めて立ち上がろうとしている。

 幼少期に両親の離婚を経験し、多忙のため育児に専念できない母親に代わって、母方の祖父母によって育てられた米国のオバマ大統領は自身の家庭環境が恵まれなかったためか、親がそろって子育てをする意義・家庭の価値を事ある毎に主張している。

 しかし、オバマ氏は、米国史上最もリベラルな大統領と揶揄される人物。家庭の在り方も伝統的な「異性同士の法的婚姻」が基になるのではなく、同性婚や事実婚などあらゆる形の「親」が含まれる。そして、その家庭の中、両親がお互いいたわりあい、愛し合う姿を見て教わるはずの「性の大切さ」に関しても、知識偏重の「自由な」性教育で済まそうとしている。

 オバマ政権はこの2月、来年度の連邦予算案の骨子を発表。この中で、「性の自己抑制教育」を助成する連邦予算を完全に打ち切る意向を示した。オバマ政権に入ってから、連邦が割く予算比率は、包括的性教育20に対して自己抑制教育のそれはわずか1。100対0になる可能性が出てきたのだ。

 自己抑制教育は、「将来の成功のため、自己実現のため、そしてまだ見ぬ配偶者のため、性的行動を慎む」ことを主張する性教育だ。そこには、子供の健全育成を見据えた倫理的・行動心理学的アプローチが骨組みとして存在する。しかし、自己抑制教育を非科学的・旧時代的なイデオロギーに染まった似非教育とみなす勢力がある。これが現在、米公教育の性教育を牛耳る包括的性教育推進派らだ。

 1990年代後半から、「米国性情報・教育評議会」(SIECUS)ら包括的性教育推進派は主要メディアやリベラルな圧力団体を味方につけ、自己抑制教育への執拗な避難・中傷を行ってきた。そして、ブッシュ政権末期には、「いたずらに性行為への恐怖心や罪悪感を強調し、性行為への忌避をもたらす反面、性感染症(STD)予防や避妊方法など、重要な性医学情報を与えない『有害な性教育』」とのレッテル貼りに成功した。

 オバマ政権下、自己抑制教育への予算は2010年に事実上打ち切りになった。しかし、医療保険改革法の成立に向けた共和党との政治的妥協で、5千万ドルが残されることになった。とは言うものの、各州の公教育で行われている性教育のほとんどは包括的性教育プログラムだ。

 保護者の大半は、未成年時に性交渉を行うのは好ましくないと考えている。親としては、「避妊やSTD予防を教えることも必要だが、性の自己抑制も重要。両論併記すべき」が当たり前だ。

日本の過激性教育を彷彿させる指針

 米教育省は、包括的性教育プログラムにも、自己抑制教育が訴える「結婚するまで性交渉は避けるべき」とするメッセージを教えるよう指導している。しかし、多くのカリキュラムの自己抑制への説明はごくわずか。逆に、性的な活動は若者の自己実現・自己主張の一環として、肯定的にとらえるべきとする主張があちこちに見て取れる。

 包括的性教育推進派は、70年代に猛威を振るったフリーセックス思想、性革命のDNAを受け継いでいると言えよう。

 今年1月、包括的性教育を推進する全米保険教育協会や全米教職者組合、法曹団体「アドボケーツ・フォー・ユース」などがイニシアチブを取り、公立学校での性教育に関する新たな指針を発表した。その内容はかつて日本の公教育を席巻した過激な性教育に準じるものがある。

 その主張は、①子供たちが健全に発育するためには、正確な性知識が必要であり、まず、医学知識に基づく性教育は小学校1年生程度から始め、性器などの器官の名前も正しく教えるべきである。②性的指向性・多様性に関しても、小学校の時点から、異性もしくは同性に対し、ロマンティックな魅力を感じることであり、同性に魅かれても何も恥じることはない、と教えるべきだ③性の自己抑制に関しては、子供たちが性的に目覚める中学2年生頃から、避妊・性病予防のための知識と共に教えると言うものだ。

 この指針、巧妙なのは、学校におけるいじめ問題を「性的指向性」にリンクさせているところだ。

グラフ

 毎年のように、性的指向性の違いから、学校でいじめにあい自殺に追い込まれる事件が発生。性的ハラスメントにあう子供たちも少なくない(表参照)。こうした事実を踏まえて、「(学校教育の現場で)性的少数者(マイノリティ)への理解を啓発する教育が必要」とする動きがある。包括的性教育推進派は、この動きに同調。性的多様性を説く性教育の必要性を訴えている。

 すでに、包括的性教育推進派の主張は、全米各州で拡散しつつある。一例をあげると、ミシガン州では今月、西部マスキーゴンの教育委員会が小学校4年生に、多様な性的指向性の存在だけではなく、マスターベーションなど様々な性行為に関する教育を教える計画を発表。同州のみならず、全米に衝撃を与えた。

 下手をすると、第2の性革命へと結びつきかねないこの流れ、連邦・各州議会の保守派議員らによる政治主導では断ち切れない状況だ。実は、ユタ州上院は今月上旬、公立学校で包括的性教育を行うことを禁止し、自己抑制教育のみを実施する法案を通過させた。

 良識派による反乱と言うべき出来事だったが、思わぬどんでん返しが待っていた。2期目を狙う同州のハーバート知事は政治的取引を優先し、拒否権を発動。同法案は成立しなかった。オバマ政権から自己抑制教育関連の予算を引き出したオリン・ハッチ上院議員など、青少年の健全育成に熱心な議員が多い同州でもこのありさまなのだ。

自己抑制教育求めて立ち上がる親たち

 保守派政治家のふがいなさとは逆に、性教育の「正常化」を求める市民らが立ち上がりつつある。伝統的なキリスト教的価値観の強い中西部でももちろんだが、リベラルな風潮の強い東海岸でも子供の保護者らが活動を始めている。

 これら草の根運動のひとつ「NYC親の選択連合」はニューヨーク市で行われている包括的性教育プロジェクトに異議を申し立てる署名活動を精力的に展開。同市のブルームバーグ市長や教育長に陳情を行う他、同市長を市民集会に招き、自己抑制教育の重要性を訴える活動を行っている。

 子供の健全な育成を心底望んでいるのは、彼らの親だ。大切な子供が、第二の性革命への試みや政治的野心など、醜い大人の犠牲になってはならない。今、強い親の心が、良識ある市民を動かしつつある。

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