• HOME
  • >
  • 情報室
  • >
  • 大震災で「絆」婚に向かう女性意識

情報室

大震災で「絆」婚に向かう女性意識

ジャーナリスト 安地善太

人間の弱さ「有限」を実感/結婚情報業で明確なデータ

 3月11日の東日本大震災が、日本人に様様な意識の変化のをもたらしたことが指摘される。中でも一人で逞しく生きてきたと思っていたキャリアウーマンが、人との繋がりの大切さを痛感させたことが伝えられている。

 著名な雑誌にコラムを定期執筆しているある女性識者は、この日、茨城県水戸市で講演を終え、東京行きの新幹線を水戸駅のホームで待っていた時に地震に遭遇。その時の体験を同コラムに書いていたが、余りの揺れの激しさに、思わず横に立っていた初老の男性の腕にすがり付き、その人に手を引っ張られながら階段を降り避難することができたという。

 ひどく孤独にさいなまれ自分を失いかけていた時、バスの運転手に「東京からきたのか?」と声をかけられ、タクシーを捕まえやすい大通りまで連れて行ってもらうことができた。そこで、ようやくタクシーを拾え、目指す目的地に到着するまで、長い時間が経過したものの、その間、タクシーの運転手が、色々と話しかけてくれたおかげで次第に元気を取り戻した。バスやタクシーの運転手の話しかけてくる声を通し、限界状況で人間がいかに人の声によって勇気を与えられるかを実感した、と述べている。

 この手記のようなコラムには、この女性の夫や子供のことが全く出てこないことから、おそらく独身のキャリアウーマンだろう。この震災体験が、男性と長らく付き合いながらも、なかなか結婚へと踏み切れなかった多くの女性たちに結婚へと背中を押しているのだ。

 結婚相談所などの様々なデータをもとに、取材した女性たちにスポットを当てながら、3・11という「有事」を経験した多くの女性が、いかに従来の結婚に対する意識を変えたかを論じた新書『震災婚ー震災で生き方を変えた女たち/ライフスタイル・消費・働き方』(白河桃子著)は、その模様を軽快なタッチで描いている。

 全国で最大の会員数を誇る結婚情報サービス大手では、今年3月、会員同士が結婚に漕ぎ付け退会する「成婚退会者」の数が、昨年同期の数より約20%増加。首都圏女性に限れば、63%を超え、首都圏男性も44%の増加した。4月も同様に急増し、首都圏女性では57.1%の増加で、首都圏男性は60.0%も増加している。

 「何かが起きているとしか言いようがない」と、結婚情報カウンセラーは述べ、著者は「何かを起こしたのは東日本人大震災だ」と指摘。同結婚情報サービス大手の広報担当者は「交際から結婚に至るまでの期間も以前より短縮している」と分析する。

 つまり、著者は、今まで通りの平穏な日が続くと思い、交際しつつも結婚を先延ばししてきたカップルを、東日本大震災が結婚へ後押ししたと見ている。取り分け「産む性」である女性たちは、首都圏のような間接的な被災地でも「生命の危機」や「有限」であることを感じ取り、「やり残したこと、結婚、出産をしたい」との意識に転じた、との見解に立つ。

 冒頭の女性識者の話ではないが、独身のキャリアウーマンは、今回の震災で、家族を持つ人たちが真っ先に家族と連絡を取ろうとするのを見て、家族の重要性を実感したとされる。

  読売新聞の女性向けサイト「大手小町」(3月18日付)には、「周りの既婚者の方は、普段とは違う夫・妻・父・母の口調で家族と電話で話している様子が聞こえ、無事でよかったですねと安心する一方、(私には心配して電話をくれる配偶者も、慌てて電話をかける彼もいないんだ…)と痛感しました」(29歳、独身女性)との投稿が寄せられた。

グラフ

 また、著者は、一人暮らしの多い首都圏の女性たちから、「一人で瓦礫に埋もれたら誰も助けてくれない」という言葉を何回も聞いたと述べている。

 震災直後の混乱で、会社での仕事の時間が減少し、ゆっくり自宅で夫婦で過ごす時間が増すなかで、何年もすれ違いだった夫婦生活に転機が訪れ、赤ちゃんを授かったカップルも少なくないようだ。

 もちろん、震災を契機に「自分の事を真っ先に考えてくれなかった」という点が原因で分かれたカップルもあれば、不倫にけじめを付けた夫婦もあるという。いずれにせよ、大震災だという有事に直面する中で、婚期を迎えている未婚の男女は、結婚というそれまで曖昧にしていた人生の本質的な課題への対処を余儀なくされたといえる。

  今後、「いつ何が起こるか分からない」という意識から、男性の収入を第一のバロメーターにする「損得」婚から、結婚に家族との絆を最重視する「絆」婚に変わる可能性を著者は強調している。

 女性の年収がアップするなか、自分より収入のよい男性を見つけるという理想の結婚は狭き門となっているが、 そうした巡り合せを待ち続けられるのは、そのための時間がいくらでもあるという考え方が基本にある。しかし、東日本大震災で時間は有限であり、「いつ何が起こるか分からない」という強い印象を女性たちに与えた。

  そうした可能性の少ない結婚を待ち続けるより、震災時に感じた「一人でいることの不安」、人間の弱さ・もろさにさいなまれないように、家族の絆を求めての結婚志向に変わっていくと見られる。

  これまで女性たちは、男女共同参画社会の目的を履き違え、自分だけでしっかり生きていけるキャリアを磨くべきであり、結婚して家庭に入り、専業主婦となるのは望ましくないとするフェミニストの影響を受けてきた。こうした風潮のなかで、女性の初婚年齢は一貫して遅れてきたのだった。

 これに伴い、結婚した女性の初産年齢も限りなく30歳に近づいている。初産年齢が高くなれば、必然的に産める子供の数も減少してくる。こうして社会における少子高齢化が一気に進んできたのが1990年代から2000年代にかけての動きであった。

 加えて、例え夫と離婚しても大丈夫なように、キャリアを磨いておくべきだとの議論まで登場。こうした考え方の延長で、女性は生涯独身でも、離婚しても、また配偶者と死別するケースでも女性の方が後に残されることが多いとして、その備えを気ままに論じた『おひとりさまの老後』というフェミニスト学者による著書がもてはやされた。

  今回の震災は、そうした議論が浅薄であることを示すとともに、「結婚まで性的交渉を持たず、結婚後は夫婦で貞操を守る」というスタイルこそが、本当の幸せをもたらし、目指すべき方向であることを明確にしつつあると言えよう。

pdficonPDFファイル(263.1KB)