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「キンゼー・リポート」反映の保健教科書 

ジャーナリスト 安地善太

自慰のススメ、勃起した性器の図掲載

 今年3月までの文科省の検定に合格した中学校用の新しい教科書が来年春から各学校で使用される。なかでも、「保健体育」教科書は、体の仕組み、特に性に関するかなり詳しい情報を提供しており、思春期を迎える中学生に様々な影響を与えることは否めない。

 これを示された米国の自己抑制教育グループを束ねる団体、アブスティナンス・クリアリングハウス(abstinence・clearinghouse)のレスリー・アンルー会長は、「これはポルノグラフィーだ」と述べている(『誰も書かなかったアメリカの性教育事情』世界日報社、07年刊)。
 もっとも、学研の保健体育教科書は、ほぼ同じ図を小学校3・4年生用の「保健体育」教科書にも使用している。このため、アンルー会長は、日本の保健体育教科書について「米国性情報・教育評議会(SIECUS、シーカス)の影響がある」と指摘している(同)。
 シーカスというのは、雑誌『プレイボーイ』を創刊したヒュー・へフナーが運営するプレイボーイ財団の資金提供によって、1964年に発足したコンドーム教育を熱心に推進する団体だ。「結婚まで純潔を保つべき」との理念を掲げる自己抑制教育団体と、教育方針をめぐって真っ向から対立している。

 ヒュー・へフナーが影響を受けたのがアルフレッド・キンゼーによる「キンゼー・リポート」だ。米国では1970年代から幼児への性的虐待が社会問題として浮上。米国は、50年代までは、キリスト教倫理が力を持っていたが、戦後しばらくして発刊された「キンゼー・リポート」の影響を受け始め、ピューリタンの性倫理が崩れていった。

 「キンゼー・リポート」は、子供は生まれつき性的であり、潜在的にオルガスム能力を持っており、近親相姦(そうかん)、大人との性交は有益である——などと述べていた。これは、多くの性犯罪者や売春婦らをサンプルとする偏向したものだったが、同リポートが米国人の隠された性の実態であるかのように錯覚。考え方が混乱し、米国は、60年から70年代にかけ、悲惨な性革命の猛威に晒されたのである。
 わが国で、こうした「キンゼー・リポート」の流れをくむ団体が、82年にできた”人間と性”教育研究協議会(性教協)だ。シーカスの会員だった山本直英氏(2000年没)が設立したもので、90年代、わが国の性教育に多大な影響を与えた。

 (財)日本性教育協会の6年毎の調査をみても、中高校生は、1970年代から80年代にかけては性行動の活発化とでも呼ぶべき現象はみられなかった。しかし、1990年代に入って、高校生の性交経験の大幅な上昇が見られる。中高校生を中心とした性行動の活発化、すなわち性行動の低年齢化は、1990年代以降に生じており、性教協の活動やその影響を受けた保険教科書の登場との間の因果関係が見て取れる。(図参照)。

グラフ

 さて、今回、新保健体育の教科書を作成したのは、学研、東京書籍、大日本図書、大修館書店だ。こうした流れをくむ過激な性教育への批判が自民党や一部のメディアで起こったが、その批判を受けてか、中学の新保険体育教科書は、多少、掲載する性器の描写が穏当になったといえる。
 東京書籍は、相変わらず勃起した男性器の図を載せているが、学研の教科書は勃起した形でなくなっている。大日本図書も同じように変更しており、新たに参入した大修館書店の図も同様である。

 また、学研の現行教科書は、「射精には次のようなものがあります」とし、夢精と並んで自慰について説明。「マスターベーション、オナニーとも呼びます。自分の性器を刺激して快感を得ることです」と記述。
 こうした記述と勃起した図が掲載された教科書で、男女が保健体育の授業を受けるのは、性に対する自然な慎ましさを破壊することになり、極めて不適切である。保健体育ということで、生理的を重視した記述になりがちだが、結婚まで純潔を保つことの重要性と、それがエイズや性感染症、および今、問題になっている子宮頸がんを完全に予防できる。その点を力説する教育こそ必要である。

 学研の新教科書では、自慰の説明文は削除されている。しかし、現行版と同じくQ&Aコーナーを作り、「精子は、毎日たくさんつくられるようですが、射精されないと、どうなるのでしょうか」という質問に対して、「自慰のことで悩む人も多いようですが、健康に過ごせるなら、その有無や回数で悩む必要はありません」などと記述している。これは、性教協の主張と全く同じである。
 説明の前半にある「射精されずに体内にたまった精子は分解されて体に吸収されます。『たまったら出せなければならない』というものではないのです」という説明に留めておくべきだろう。

 さらに、「性情報への対処と責任ある行動」という項目が、現行・新教科書の両方に設けられている。
 そのなかで、テレビ、雑誌、ビデオ、インターネット、携帯電話などを通じて、様々な性情報が得られる環境にあることを指摘しつつ、「これらの中には、正しくない情報がふくまれていることが少なくありません」とし、「性を『もの』として扱っているものも多く見られます」と警告。
 そのうえで、「こうした情報に惑わされて誤った行動をして、心身ともにきずついてしまうことや、犯罪に巻き込まれてしまうこともあります」と述べている。

 この説明は、妥当な内容である。ただ、最後は「氾濫する情報の中から正しいものを選択し、十分に理解したうえで行動を選択する必要があります。また、その行動によってどのような結果が起こるのかを予測し、自分の考えをしっかり持った責任ある行動をとることが大切です」と結論。
 一見、もっとそうな説明だが、「性の自己決定」を支持し、結婚前の青少年が状況によっては性行為をする選択肢もあることを示唆するものだ。携帯電話の発達で援助交際など、簡単に行える環境になっている。中学生の立場では、責任を取れないのは明白であり、はっきりと「性行為をすべきではない」と書くべきである。

 現行教科書の記載内容が余りにひどいため、多少、改善された印象を与えるが、教科書の内容が、子供たちに与える影響は大きい。今後もしっかりウオッチし、必要に応じて批判していく必要がある。

pdficonPDFファイル(765.8KB)