• HOME
  • >
  • 情報室
  • >
  • 米国で子宮頸がんワクチン慎重論 — 「純潔メッセージに逆行」の批判 —

情報室

米国で子宮頸がんワクチン慎重論

ジャーナリスト 安地善太

「純潔メッセージに逆行」の批判

 日本では、地方自治体が国の財政支援を受けて、中学2年程度の女児を対象にした子宮頸がんワクチンの接種を相次いでスタートしている。このワクチンを接種すれば、子宮頸がんからフリーであるかのような受け止め方も広がりつつある。
 だが、米国でも当初、全米的に子宮頸がんワクチンの接種を義務付ける法案が審議されたものの、実際に接種を女児に義務付けているのはワシントンDCだけであることは、あまり知られていない。

 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマ・ウイルス(HPV)は15種類ある。わが国で導入した英国グラクソ・スミスクライン社開発のワクチン(サーバリクス)によって防げるHPVは、16型と18型の2種類だけだ。これは、欧米にHPVの16型と18型が多いためである。日本では52型と58型が多く、サーバリクスがどれほど有効かはまだ不明だ。
 子宮頸がんワクチンの接種を推進してきた団体の一つ、日本思春期学会(林譲治理事長)は、HPV緊急プロジェクトを発足。昨年8月、「HPVワクチンの普及に向けて」と題した報告書を作成した。
 その冒頭挨拶文で、林理事長は「疫学的にもセックスデビューする以前の若い女性へのHPVワクチン接種は予防に極めて有効」と述べている。ワクチン接種さえすれば、性体験しても大丈夫といわんばかりの内容である。
 ちなみに同学会には、コンドーム教育に熱心な泌尿器科医の岩室紳也氏がおり、北海道小樽市で同ワクチンの必要性を説いている様子が報じられた。
 学会の「HPV緊急プロジェクト」の庶務担当には、純潔教育とは正反対の避妊教育を推進する家坂清子医師が名を連ねている。

 08年、ドイツ癌研究センターに勤めるハラルド・ツア・ハウゼン氏の「HPVと子宮頸がんとに因果関係がある」とした発見にノーベル医学賞が授与され、この学説が権威付けされた。その関係で、日本ではサーバリックスが09年10月に承認され、同12月に発売された。
 しかし、HPVに感染したから、即、子宮頸がんが発症する、というような分かりやすい形にはならない。
 HPVは、性交渉によって感染するが、人間の免疫力によって自然消滅するケースが大半である。HPVが、子宮頸がんの前がん病変である異型性やがんにまで進展するには、感染後、10年以上経過していることが多い。
 前述の雑誌によると06年6月、米国で、16型、18型のみならず6型、11型のHPVにも効くメルク社開発の子宮頸がんワクチン、ガーダシルが認可された。さらに、免疫実施諮問委員会が11から12歳の女児に同ワクチンの接種を義務づけるよう推奨した。
 このため、1年以内に41もの州で、教育的キャンペーンや公的補助を施しながら、同ワクチン接種を保険料でカバーして推進する法案が提出された。
 また、24の州では通学女児に接種を義務付ける法案が提出された。だが、その後、08年までに、大半の州がそうした法案の可決を相次いで見送ってしまったのである。
 それでも女児に同ワクチン接種を義務付けているは、10年2月の時点でワシントンDCだけだ。
 同誌の報道によると、当初、各州が同ワクチン接種を義務付ける法案提出に動いたのは、そうしたワクチンに女児の両親が関心を持とうと持つまいと、平等にその恩恵を受けられるという前向きの判断があったためだ。

 また、ワクチン会社は、女性議員からなるWOMEN.IN.GOVERNMENTいう全米組織に、法案提出に向け多額の政治献金を行った。その代償として、同組織に所属する女性議員が熱心に動いた。
 しかし、HPVは教室では感染しないこと、少なからぬ親たちは、性感染症との関係のあるワクチンであることから、単に女児にワクチン接種を勧めるだけでは不十分であるが、その年代で性の問題を子供と議論することを好まなかったこと、新しいワクチンは、長期的にその効果などを調査した上でなければ、接種の義務付けをすべきではないということ——こうした観点から慎重論が広がった。製薬会社の議会工作が明らかになったことも一因だ。
 同誌の論文は3人の医師が、カリフォルニア、ニューヨーク、テキサスなど、位置的にも人口・民族的な構成がそれぞれ非常に違う6州で関係者にインタビューして作成したものだ。
 聞き取り対象者は、この法案を提出した州議会や医療機関、諮問委員会などで積極的法案作りに協力した関係者たちである。
 それによると、純潔教育のメッセージに真っ向から対立するという理由も指摘されている。
 カリフォルニア、インディアナ、ニューヨーク、テキサスの各州で、法案提出の関係者は、事務所を訪れた婦人たちから「ワクチンより純潔を保つよう指導すべきである」と要請された。「ワクチン接種を義務付けることは、私達の娘に性的乱交を推進するものだ」などの指摘も受けた。
 さらには、多くの親が、どんなワクチンを子供に接種させるべきかなど、州政府の方が子供の育て方を良く知っているというといった高圧的な姿勢に反発を感じた、との意見も述べられている。

グラフ  わが国の公的支援による子宮頸がんワクチン接種の動きは、まさに政府や自治体が、思春期を迎える子供たちに、性にかかわる繊細なテーマについて、一つの選択枝だけを迫っているようなものである。
 性関係を持つことによって発症する性感染症(STD)は子宮頸がんに限らないし、同ワクチンは、言うまでも無く、エイズ・ウイルス(HIV)に対して効果はない。セックスデビューを奨励して、こうした病気の危険にさらすことを、どう考えているのだろうか。
 日本では、年7000人が罹患し間2400人が子宮頸がんで亡くなるなど死亡数の多い病気であり、他のがんでは、高齢になるほど発症率が上がっていくが、子宮頸がんはウイルスによって起こるということで、若い世代の発症が多いのが特徴だ。ワクチンで防止できる唯一のがんということから、ワクチン接種に注目が集まっている。
 しかし、かつて30代以降の女性が多く発症した子宮頸がんは、最近ではとみに発症年齢が若返っている。これは、ティーンエイジャーの性体験率が増加し、それに正比例して子宮頸がん患者が増加していることを示すものだ。
 東京都では、高校3年生の段階で、性体験率は男女とも5割近くになっている。今回の施策で、さらにティーンエイジャーの性体験率が上昇し、若年での子宮頸がんの発生率も一段と上昇するという悪循環を引き起こす危険性が大きい。
 結婚まで性交渉を控えることが何よりも、子宮頸がんの予防となる。改めて、純潔を保つ自己抑制教育の重要性が見直されなければならない。

pdficonPDFファイル(569.5KB)